「カアちゃんのピーマンの豚肉はさみ揚げ!! 旨いんだ 」
ニキビ面のM君は泣きだしそうな顔で言った。
越後長岡から上京して3年目、茶髪の21才、派遣社員なのだ。
「東京には旨いものがいっぱいあるけれど・・
俺にはカアちゃんのが一番だ !!」
「そろそろカアちゃんのいる長岡に帰ったら??」
「・・・・・・」
プイと向こうに行ったM君の背中、何だか泣いているようだった。
それから10年が経ち、私は桂恋村に住んでいる。
M君は今も東京だろうか? それとも長岡に帰っただろうか?
いずれにしても、あの時M君を泣かせたカアちゃんの味とは何なのか?
深くなってきた秋の写真を眺めながら、そのことを考えてみたい。
「うまいな~」 ほっぺニコニコ
家族にそう言ってもらえるように、カアちゃんは精一杯汗をかく。
もちろん手抜きなんて端から考えてもいない。
それどころか、味に直接関係のないことまでやっている。
「うまくな~れ・・お鍋さん・・」
鍋をガス台にかけるとき、呪文のようにブツブツ呟いている。
不思議なことに、お鍋さんの手助けで味がどんどん良くなる。
カアちゃんの料理には主張がある。
彼女の個性の表現と云い換えてもよい。
他人・・「もう少し甘いほうがいいな !!」
彼女・・「わが家では、これでいいの」
家族以外の10人中8人までがそう云っても、ガンとして耳を貸さない。
家庭ではそうでも、業務となると別物になる。
企業だから利益の追求が第一義、コスト意識から原材料をきりつめる。
問題なのは味だ!!
お客さんの最大公約数から逆算された味に落ち着く。
だから、コンビニ・スーパー・ファミレス・似たりよったりつまらない。
読者の皆さん・・写真をジックリご覧いただきたい。
カップと皿は山梨.西山町に窯を構える【久村さん】の作品・・
真っ赤に色づいたナナカマドの実を一房だけ添えた。
写真では一見変哲もない【まんじゅう】だが、
一口ほおばると「・・・??・・・」
夢中で一気に食べてしまう。
「うまいよ~ カアちゃん !!」
なぜなのか、涙がポロポロ こぼれてくる。
カアちゃんのやさしい味だから・・
夢中で2個、立て続けに食べても、まったく胸やけを起こさない。
涙で食べるまんじゅうだから、3個目ともなるとショッパクなってきた。
涙ポロポロの【春採のまんじゅう屋】さんは、かわいい軽ワゴン店舗。
ステキなお母さんが一人で作って、お母さん一人だけの店舗だ。
お母さんが蒸し器から取り出す大振りのアンマンは120円なのだ。
仮にその10倍の1200円でも、私は買ってしまうだろう。
食べていると、彼岸の母親に会えることができるのだから!!
東京や大阪から忙しい時間を割いた上に、数万円の航空代金を支払い、
釧路たんちょう空港に降り立ち、軽ワゴン店舗の前に並んだとしても・・
それは【正しい行い】と誉められるほどの得難い味なのだ。
「お母さん !! うまかったよ~ 」
ピカー ピカー
み仏の光が【ほっぺニコニコ】のお母さんにやさしく降り注ぐ。
潮風が吹きさらす岩場で・・今を盛りのエゾオグルマも笑っている。
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