私より一世代前は・・
♪・・青い背広でココロも軽く・・♪
私の世代はVANジャケットの・・
フックベンツの紺ブレは金ボタン
紺・茄子紺・花紺・群青色・スカイブルー・ネイビーブルー
青は希望の色、気持ちまで軽~るくなる色なのだ。
アイヌモシリは冬晴れ、鮮やかな青空が拡がっている。
さあ~、桂恋村のそんな写真を見ながら、昔ばなしでお笑いいただきたい。
旭川のケンちゃんと涙の別れから一年が過ぎ、
私の赴任先の帯広で懐かしい再会を果たした。
よもやま話をどこかでのんびり・・と糠平温泉に向かった。
イワナ釣りと山菜採り、それを肴に旨い酒をいただく趣向なのだ。
季節は春爛漫の5月、ポカポカ陽気、
十勝の眩しい青空の下、糠平ダムサイトに車を停めた。
糠平ダム湖に流れ込む支流に向かってトコトコ歩いていると、
「スイマセン・・然別に行く林道はどこでしょうか??」
上士幌方面からやって来た白いサニーから可愛い声が飛んできた。
・・オオッ、タレ眼の若い娘だ!! マズイことに??
私の予感は当り、
タレ眼好みのケンちゃんは血走った眼でサニーを舐めらんばかりに寄る
「糠平の街を通り抜けて右折・・○△×◎・・ペラペラ」
土地勘もないのに、知ったかぶりで夢中になってご説明なのだ。
「先に行ってるぞ・・」
そんなのにかまっていられないので、私は一人で支流に向かった。
100mほど湾曲したダム湖沿いの進み、振り返ると車道が見えた。
サニーの傍らで二人は何やら話しこんでいるようだ。
「オオ~イ~ オオイ~」
大声で手を振ると、二人は手を振って返した。
何気なく崖の縁から10mほどの水面を見下ろすと、魚影らしきものが??
・・でかいオショロコマ??
大発見にドキドキ、見定めようと一歩踏み出すと、足元がグラッグラ
岩が崩れてガラッ・・「アアッ・・落ちる!!」・・ダバン
真下に落ちてゆく僅か何秒間なのに、空中に浮かんでいるのを長く感じ、
水面にバシンと叩きつけたショックで身体が飛び跳ねたようだ。
ブクブク ブクブク ブク ブク
底の方に沈んでいく自身を感じた。
・・このままでは死んでしまう
もがいたが、金縛りのようになって、思うように手足を動かせない。
股までの重いゴム長靴と、これまた重い背負いのリュックサックの所為だ。
もがいても、もがいても・・どんどん沈んでいく。
・・俺の人生もこれまでか? カアチャン
遠くなっていく意識の中に、母親の顔が浮かんできた。
「ヒロや、これくらい何ともないがや」
ニッコリ笑っている母親が見えた瞬間、辺りは真っ青になった。
見上げると、水面の向こうに青い空が見えた。
我に返った時には、水面まで浮上して立ち泳ぎをする自身がいた。
無我夢中、岸にたどり着き一息いれて車道を見たが、何もいない。
サニーも、若い娘も、ケンちゃんも、みんな消えていた。
・・??・・
いくら色香に惑わされたとは云えども、この私をないがしろにするとは??
【ヒロちゃんとケンちゃんはナカヨシコヨシ】
そんな単純な関係ではなかったのだ。
モテナイ男同志、互いにココロの傷を舐めあって支えあったのだ。
【ケンちゃんの放水銃、YKKに噛まれ事故】の時でも、
着替えのパンツを貸してあげて、病院まで送迎した。
旭川駅の別れでは、待合室の陰でケツまで触らしてあげた仲なのに・・
ケンちゃんのホルモンの異常分泌での脳細胞の混乱を理解しても、
やり場のない怒りがこみ上げてきた。
ダムに落ちたのは自身の不注意でも、置き去りはヒドイ仕打ちだ。
カリカリ イライラ
・・ケンちゃんのバカ野郎・・絶交だ・・
♪♪・・・上を向いて泳ごう
涙がこぼれないように
想いだす 青い空
一人ぼっちのダム
青空は雲の上に
幸せは空の上に
上を向いて泳ごう
涙がこぼれないように
泣きながら 泳ぐ
一人ぼっちのダム・・・♪♪
翌、月曜日、仕事場で段取りを終え、ステーションデパートに向かった。
仕事場から1分ほどの近距離、旨いコーヒーをいただくサボリなのだ。
エスカレーター横のベンチでうなだれている男がいた。
真っ赤なリンゴホッペに真っ白なプクプク手足・・
「ケンちゃんだ!! この野郎 こんなとこに・・」
向こうも、こちらに気づいたようで、顔を伏せたまま抱きついてきた。
人前をはばからずハグ、グイグイ締めあげてくる。
「・・オオッ クルジイ!! 息デキンベサ ハァ」
吉葉山がグイグイ寄りたてるシーンが再現したのだ。
もがきながら見えたケンちゃんの顔は涙と鼻水でグシャグシャ・・
ケンちゃんは泣いていたのだ。
「よしよし・・泣くなよケンちゃん・・離してくれよ」
不思議なことに、ケンちゃんへの怒りはどこかに消えていた。
「ヒロちゃんがダムに落ちたの、俺知らかったべ~」
タレ眼ちゃんの色香に迷いサニーに同乗、然別経由で帯広に向かった。
夜になって、西2条中通りのスナックからタクシーで十勝川温泉へ、
翌朝目覚めると彼女は消え、財布も消えていた。
キャッシュカードの無い時代、虎の子の定期預金を解約した金だ!
理由を旅館の女将に話して、宿代を待ってもらうと、
「釧路方面から流れて来た悪いキタキツネが糠平温泉に棲みついたさ。
色白の若い男が好きなようで、今まで何人も騙されたんだ!!
けっど、決して誰とも一夜を共にしたことはないとさぁ。
あんたと昨夜は一緒だったんだから、本当さの恋でないかい?
アンタだけだ!!このぉ・・色男」
そう云って、女将は勘定を待ってくれた。
とりあえず、旅館の送迎車で帯広駅まで送ってもらった。
「ヒロちゃんにどうして話すべか??どうやって謝るべか??」
そう話したケンちゃんの真っ赤なリンゴほっぺは涙でグシャグシャ。
後にも、先にも、ケンちゃんのモテモテ経験はこれ1度だった。
「キタキツネさんの恋は本当だったのか??」
そんな疑問はあったが、
真の友情だから、ケンちゃんのために、あえて詮索しなかった。
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